機能性ディスペプシア
機能性ディスペプシアとは
機能性ディスペプシアとは、胃腸機能が正常であるにもかかわらず、上腹部の不快感、痛み、満腹感、吐き気などの症状が継続的にあらわれ、日常生活に支障をきたす疾患です。消化器症状の中で、最も頻度の高い病気の一つです。日本では、10人に1人以上がこの症状を訴えているといわれています。しかし、病理学的には胃の異常は見られず、胃の運動や分泌機能などに問題があると考えられています。原因はまだ明確に解明されていませんが、ストレス、食生活の乱れ、過剰なカフェインやアルコールの摂取、喫煙などが関与していると考えられています。
機能性ディスペプシアの定義
機能性ディスペプシアは、上部消化管症状である胃もたれ、腹痛、吐き気、食欲不振などが、明確な器質的異常がない場合に診断される疾患です。つまり、胃や十二指腸に病的な変化が見られないにもかかわらず、慢性的な消化器症状が継続している状態を指します。
機能性ディスペプシアは、胃腸の機能障害による症状であり、検査では有機的な異常が見つからないことが多いため、診断には症状や病歴、身体診察が重視されます。ただし、以下の検査が行われることもあります。
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上部消化管内視鏡検査 :胃の内部を観察する検査で、胃炎や胃潰瘍、食道逆流症など、有機的な病変がある場合は診断につながることがあります。
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逆行性胃腸造影検査 :口から造影剤を飲み、X線で撮影する検査で、胃腸の動きを観察することができます。
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血液検査 :胃炎や胃潰瘍などの有機的な疾患を除外するために、血液検査が行われることがあります。
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尿素呼気試験 :ピロリ菌感染症を調べる検査で、ピロリ菌に感染しているかどうかを調べることができます。
ただし、これらの検査はあくまで有機的な疾患を除外するためのものであり、機能性ディスペプシア自体の診断には特に決定的な検査方法はありません。
機能性ディスペプシアの原因
機能性ディスペプシアの原因はまだ完全には解明されていませんが、以下のような要因が関与していると考えられています。
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食事の問題::食事によって胃酸の分泌が増加し、胃の動きや消化に影響を与えることがあります。また、胃酸が食道に逆流して胃酸逆流症状を引き起こすことがあります。
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精神的な問題: ストレスや不安、うつ病などが機能性ディスペプシアの原因となることがあります。精神的な要因が胃の運動に影響を与え、胃の消化機能を低下させることがあります。
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胃の運動の問題:胃の動きが異常になることが原因で機能性ディスペプシアが起こることがあります。具体的には、胃の収縮が強すぎたり、弱すぎたり、不規則になったりすることがあります。
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腸内細菌叢の問題:腸内細菌叢が健康的ではなく、異常な菌が増殖したり、正常な細菌のバランスが崩れたりすることが原因であるとされています。
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その他の要因: 胃の炎症や糖尿病、甲状腺機能異常症、胃酸逆流症、食道炎、薬物副作用などが原因となることがあります。
機能性ディスペプシアの予防法
機能性ディスペプシアの予防法については、原因がはっきりしていないため、特に特定の予防法はありません。ただし、以下のような生活習慣の改善が、症状を軽減する可能性があります。
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食事の改善:食べ過ぎや、脂っこいもの、刺激の強いもの、アルコールやカフェインを過剰に摂取しないようにする。
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食事の時間帯を設ける:決まった時間に食事をとることで、胃腸のリズムを整える。
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健康的な生活習慣:適度な運動やストレスを避け、規則正しい生活習慣を心がける。
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喫煙を控える:タバコの煙は胃腸に刺激を与え、機能性ディスペプシアの症状を悪化させる可能性があるため、禁煙することが望ましい。
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薬の適切な使用:胃腸に刺激を与える可能性のある薬は、適切に使用するようにしましょう。例えば、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は、胃腸の粘膜を傷つける可能性があるため、長期間の使用には注意が必要です。また、胃酸の分泌を抑える胃酸抑制剤は、慢性的な胃痛や胃酸逆流に効果的な場合がありますが、長期間の使用には注意が必要です。適切な薬の使用方法については、医師の指示に従いましょう。
機能性ディスペプシアの治療法
機能性ディスペプシアの治療法は、患者の症状や原因に基づいて個別に決定されます。以下は一般的に使用される治療法です。
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生活習慣の改善: 慢性ストレス、不規則な食事、過剰な飲酒、喫煙など、生活習慣がディスペプシアを引き起こす場合があります。これらの要因を改善することで、症状が軽減することがあります。
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薬物療法:
- PPI(プロトンポンプ阻害薬):胃酸分泌を抑制し、胃の炎症を抑えることができます。
- H2ブロッカー:胃酸分泌を抑制し、胃の炎症を抑えることができます。
- 抗うつ薬:胃腸運動を調整することで、症状を軽減することができます。
- 副交感神経刺激薬:副交感神経の働きを活発にし消化管運動を亢進させることで、胃もたれなどの消化器症状を改善する薬。
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心理療法: ストレスや不安がディスペプシアの原因となる場合、認知行動療法やリラクゼーション法などの心理療法が有効な場合があります。
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食事療法:
- 小分けで頻繁に食事をすることで胃を負担をかけず、軽度の症状の場合には改善されることがあります。
- 脂っこい、刺激的な食べ物、アルコール、カフェインを避けることで、症状を改善することができます。
機能性ディスペプシアは、患者によって症状や原因が異なるため、治療法も個人に合わせて決定される必要があります。専門医に相談することをお勧めします。
機能性ディスペプシアの内服治療
機能性ディスペプシアの内服治療には、以下のような薬物があります。
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PPI(プロトンポンプ阻害剤):胃酸分泌を抑制する薬剤で、胃の酸性度を低下させます。PPIは、胃酸によって引き起こされる胃痛や胃酸逆流による不快感を軽減する効果があります。
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H2ブロッカー:胃酸分泌を抑制する薬剤で、PPIと同様に胃酸逆流や胃痛の緩和に効果があります。
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抗うつ薬:機能性ディスペプシアには、ストレスや不安感が関与していることがあるため、抗うつ薬が使用されることがあります。特に、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やトリプタンなどが使用されます。
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副交感神経刺激薬:胃腸の運動を促進し、食物や胃酸の逆流を抑制する薬剤です。代表的なものに、ガスモチンやアコファイドなどがあります。
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アルギニン:胃粘膜の保護や修復を促進する効果があるアミノ酸で、機能性ディスペプシアによる胃痛や不快感を軽減する効果があります。
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サプリメント:胃腸の働きを改善するためのサプリメントも使用されます。例えば、プロバイオティクス、消化酵素、アロエベラなどです。
治療法には、個人差がありますので、医師の指示に従って適切な治療を行うことが大切です。また、複数の治療法を併用することがあるため、専門医の診断・指導を受けることが望ましいです。